Maltheads のハンドポンプビール(リアルエール)
※ハンドポンプ修理完了。半年ぶりにリアルエールの提供を再開しております (2024.6.3)
Maltheadsでは、2021年10月よりイギリス風の「ハンドポンプ」を設置しております。
札幌のビール専門店で「ハンドポンプ」を設置しているのは当店だけ! (北海道=札幌でも2軒のみです)
ハンドポンプからは「リアルエール」が飲めます。
登別のクラフトビール「金鬼リアルエール」をメインに、さまざまなリアルエールを提供しております。
※樽のサイクルの事情でリアルエールが繋がっていない場合もあります。ご了承ください。
リアルエールの魅力について、びあけん1級を持ち ビアジャーナリストでもある店主が、本格的に書きます。長くはなりますが、お付き合いください。
■目次
■「リアルエール」のおいしさ
「リアルエール」とは、大元を辿れば、イギリスのパブで提供されている伝統的なビールです。「リアル」とは「本物の」や「真の」という意味です。
リアルエールはビアスタイルではありません。様々なビアスタイルで造られますが、共通する特徴は「含まれる炭酸ガスがとても少ない」ということです。
リアルエールは、過度なガスによる膨満感がなく、口当たりが非常に滑らかであり、麦芽の甘味、ホップの苦味をダイレクトに感じやすいという特徴があります。
■そもそも「リアルエール」ってなに?
何と比べて「リアル」なのかといえば、われわれも「ビール」と呼ぶ、あの「ピルスナー」との比較です。
ピルスナーが東欧のチェコで生まれたのは1842年。「ラガービールの故郷」ドイツに逆輸入されてドイツ全土に普及したのは、意外と最近で19世紀末のことです(ミュンヘンでの「ヘレス」の誕生)。
ピルスナーがヨーロッパ西部に伝わるのはその後です。「エールの本場」イギリスでピルスナーが席巻するのは第2次大戦後のことでした(日本は明治期にすでにドイツ流のラガービールが定着していました)。上陸に時間はかかったものの、ピルスナーの「猛攻」はすさまじく、1960年代末にはロンドンの伝統的なエールはピルスナーに置き換えられ、まさに風前の灯火にまでなります。
「このままでは古き良きイギリスの本当のエールがなくなってしまう。なんとかしなければ」。そうして立ち上がったのが、ロンドンの新聞街フリート・ストリートの4名のジャーナリストでした。1971年 'The Society for Preservation of Beers from the Wood'(樽で熟成させたビールを守る会)を発足。伝統的なエールを出すパブを保護する運動を開始します。1973年、「真のエールを守る会」「CAMpain for Real Ale」と改称。頭文字を取り「CAMRA」(カムラ、キャムラ)と呼びます。
CAMRAの活動は多岐に渡りました。初期は、カスクコンディションを守ってきた醸造所が閉鎖されるたびにボトル(カスクコンディションの敵)を棺に入れて担いで追悼のデモ行進をし、新聞にはその現状を憂う記事を載せるなどの過激な活動を行いました。次第に啓蒙活動に重点を置くようになり、グレード・ブリティッシュ・ビア・フェスティヴァル」(GBBF)を開催。これは日本でも各地で行われている「ビアフェス」の元祖です。また"Good Beer Guide"(「良きビールガイド」)という本をまとめ、全英のリアルエールを出すお店の紹介に努めます。
これらの精力的な活動の結果、リアルエールは無事に生き延びました。そうした成果から、CAMRAは「最も成功した消費者団体」とも言われます 。そしてこのCAMRAの成果や精神は、大西洋を越えてアメリカに渡り、現代の「クラフトビール」に多大な影響を与えたと言われています。
このCAMRAが守ろうとした「本物のエール」こそがリアルエールであり、クラフトビールをはじめとするビールの専門店であるMaltheadsが提供したいのも、その精神性なのです。
■イギリスのリアルエール
通常ビールは、ブルワリー(醸造所)で熟成まで行われて完全にできあがったビールを樽に詰めて提供します。ビアパブでももちろんその状態の樽を購入して提供します。
ところがリアルエールの場合、ビアパブはブルワリーから「未熟成」の樽ビールを購入します。濾過・殺菌をせず、酵母と糖分、清澄剤(チョウザメの浮袋)、ホップなどを添加した状態のビールが出荷されます。受け取ったパブでは地下にある貯蔵庫(セラー)に保管。自らの手で熟成させます。それがもっともおいしくなるタイミングになって、はじめてパブで提供されるのです。
このビール熟成を管理する責任者を「セラーマン」と言います。セラーマンはセラーのすべてのビール樽の熟成状況を把握しています。その樽が一番おいしくなったタイミングが来ると、地上のパブ店舗と繋がっているビールホースを樽に繋ぎます。
地上の店舗では地下セラーの樽からビールを注がなければならないのですが、そのために「ハンドポンプ」と呼ばれるポンプで、井戸のようにビールを汲み上げるのです。「ハンドポンプ」は「リアルエール」を汲み出すための器械です。
TOA著『恋するクラフトビール』より(転載許可済)
この「引っ張り出す」ことを「ドラフト(Draft)」といいます。よく「生ビール」のことを「ドラフトビール」とも言いますが、本来はハンドポンプのように引っ張って汲み出されたビールのことです。通常のビールサーバーは炭酸ガスの力で「押し出す」ので逆なのです。
また金属製の樽を「ケグ(Keg)」と言いますが、伝統的なリアルエールは木樽であり、CAMRAの中でも「原理主義的」な人たちはケグビールを嫌うそうです。(現代ではさすがにケグ流通が多くなっているようですが)
「未熟成のビールをパブで熟成させる」ということは、ビール自体はできたての「生きた」(リアル)状態です。1日で酸味が出てきてしまうほどデリケートなものなのでその日のうちに売り切らなければなりません。
つまり、ビールを管理するセラーマンの熟成の技量がパブのビールの味に直結し、名店と呼ばれるビアパブには必ず優れたセラーマンがいます。「リアルエール」は、そうしたパブで出されるビールのことを指すのです。
CAMRAの定義としては、「伝統的な原料から造られ、最終的に供される容器の中で二次発酵によりコンディショニングされ、外部からの炭酸ガスによらずに注がれるビール」のことです。これが狭義の「リアルエール」です。樽内のビールのビアスタイルはなんでも構いません。実際には、ビター、スタウト、IPAなどのイギリス発祥のエールが一般的です。
余談ですが、イギリスのパブでビールを飲んだことがある方の中には、「気が抜けていて、ぬるい」という体験をした方もいるかもしれません。しかしそれは、上で述べたように、元々ビールの炭酸が弱いことが理由です。
そしてもう一つの理由は、イギリスの「エール」は、われわれがいつも飲む「ラガー(ピルスナー)」と比べて、高めの温度帯がよりおいしいビールだからです。ワインに置き換えて例えれば、「ラガー」は白ワインのようにキリッと冷やした方がおいしく、「エール」は赤ワインのように冷やし過ぎない方がおいしいのです。
こうしたパブのビールの液温は、保管しているセラー(地下室)の温度であり、決して「常温」ではありません。唇に触れたときにかすかな冷たさを感じるはずです。「ヨーロッパは常温でビールを飲むんだぜ!」という言葉は一切信用しないでください。
■日本のリアルエール
ここまでの話をまとめますと、CAMRA の「本来の定義」で言うリアルエールとは、「セラーマンの管理の元で提供される、ビアパブで2次発酵させたビール」となります。
しかし、日本の酒税法上、樽詰め後の熟成発酵を実現させることはできません。それは「発酵」となってしまい、酒税を支払わなければならなくなってしまうからです。
そこで日本では、「ハンドポンプ」から提供されるビールのことを「リアルエール」と呼び習わしています。
そもそも日本でケグ(金属製の樽)以外にビールを詰めて流通させることはほぼ不可能で、CAMRAが最初に唱えた「本当のリアルエール」を提供することは叶いません。
そこで日本でリアルエールを醸造するブルワリーは、カーボネーション(炭酸)を通常よりも低く抑えた「微発泡」の状態にビールを造り上げます。つまり日本のリアルエールは、「ハンドポンプで提供される微発泡のエール」と定義することができるでしょう。イギリスの定義に比べると広い定義となります。
「それは本当のリアルエールではない」という野暮なことは言わないでください。日本には日本の事情がありますし、ビアスタイルや定義はそういうものに左右されてしまうものなのです。
極端な話をすれば、通常の大手メーカーのピルスナーをハンドポンプで提供することも可能です。しかしそれでは、CAMRAの活動とは大きく矛盾してしまいます。Maltheadsで提供したいのは、CAMRAがリアルエール運動で守ろうとした「精神性」(=本質的なこと)なのです。
■Maltheadsでリアルエールを!
芳醇な味わい、柔らかな口当たりはハンドポンプで汲みだされるビールならではのもの。
ぜひ Maltheads でリアルエールを体験してください。
2021年には、クラウドファンディングで465%の目標を達成しました!
こちらにもリアルエールについて詳しく書きましたので、併せてご覧ください。
「ビールのまち・札幌に、多彩な「リアルエール」を再び!クラフトビールの原点回帰」
https://camp-fire.jp/projects/view/442436